2025年2月13日・14日、岡山県備前市〜倉敷市を舞台に、日本儒学の権威である咸生書院の難波浩気先生のご案内のもと、日本儒学の精神とともに近代日本を切り拓いた偉人ゆかりの地を巡る視察ツアーに参加してきました。
「儒学」と聞くと少し難しい印象があるかもしれませんが、今回の旅は現地に立って、石を触れて、空気を吸って、「なぜこの国の近代はこんなにも凄かったのか」をリアルに感じる2日間でした。
1日目① |世界最古の庶民のための公立学校「旧閑谷学校」

最初に訪れたのは、岡山県備前市にある特別史跡・旧閑谷学校。石垣の向こうに広がる赤瓦の建物群を目にした瞬間、「これが350年以上前の学校か……」と思わず声が出ました。
私は3度目の訪問でしたが、今回も非常に新鮮な体験ができました。
寛文10年(1670年)、岡山藩主・池田光政によって創建されたこの学校は、現存する世界最古の「庶民のための公立学校」として知られています。当時の藩主が、武士だけでなく農民も含めた民衆全体の教育を目指したというのは、今の時代から考えても相当に先進的な発想です。

講堂の中に入ると、漆塗りの床板が光を反射してツヤツヤと輝いていました。壁の額には「至明堂」の文字。難波先生によれば、この場所では今も論語の素読や儒学の講義が行われているとのこと。時代を超えて「学ぶ場」として生き続けているのは、建物の美しさとともに、この学校の最大の魅力だと感じました。
また、構内には孔子を祀る聖廟をはじめ、いくつかの社が残されており、儒学の精神が建築空間そのものに宿っていました。

展示室では、旧岡山県閑谷中学校時代の入学者選抜方法や教練実施状況報告書なども紹介されており、近代に入ってからも続いた教育の系譜を知ることができました。

1日目② |弥生の神秘「楯築遺跡」と弧帯文石
弧帯文石

閑谷学校から移動し、倉敷市矢部に位置する楯築遺跡へ。弥生時代後期(2〜3世紀頃)の大型墳丘墓で、「吉備の王」の墓ではないかとされている場所です。
小屋の中に納められた弧帯文石(こたいもんせき)は、圧倒的な存在感でした。大きな楕円形の石の表面全体に、渦巻くような弧帯文様が彫り込まれ、正面には人の顔のようなものが浮かび上がっています。重要文化財に指定されているこの石は、弥生時代の石造彫刻としては日本唯一の存在。

「誰が、何のために、これだけ手の込んだものを作ったのか」――答えは誰にも分からないけれど、その謎がまた人を引き寄せる。儒学の話とは一見遠いようでいて、「学ぶ・問う・伝える」という人間の本質的な欲求という意味では、確かに同じ地平に立っている気がしました。
2日目① |産業と教育の邂逅「倉紡記念館」
クラボウ100周年展示
2日目は倉敷アイビースクエアに移動し、倉紡記念館(クラボウ)を見学。明治21年(1888年)創立のクラボウ(倉敷紡績株式会社)の歴史が、当時の建物をそのまま活用した記念館で丁寧に展示されています。
「創立100周年」のパネルには、CIの策定や新社ビルの建設、東京での総合展示会など、時代を切り拓いてきた企業の軌跡が記されていました。コーポレートメッセージ「くらしの鼓動・つたえます。」は、今もクラボウの精神として生き続けています。
2日目② |渋沢栄一と三島中洲をつなぐ「備中漢学の人脈」
今回の視察で最も印象に残ったのが、この展示でした。
幕末維新期の人的交流
「幕末維新期の人的交流」と題されたパネルには、近代日本経済の父・渋沢栄一と、
漢学者・三島中洲(二松學舍大學の創設者)の関係図が描かれていました。
三島中洲が岡山藩の第八十六銀行設立の際に渋沢栄一に相談したことがきっかけとなり、両者の交流が始まりました。三島の「義利合一」という思想と、渋沢の「道徳経済合一説」が深く共鳴し、やがて渋沢は二松學舍の第三代舎長に就任。儒学の精神が、近代日本の経済・産業の基盤に深く刻まれていたことを改めて知りました。
方谷・中洲ゆかりの備中漢学関係の人々
また「方谷・中洲ゆかりの備中漢学関係の人々」の展示では、山田方谷(備中松山藩の改革家)、古川松村、丸川松隠ら、この地から生まれた多くの漢学者・思想家・実業家たちの人脈図が紹介されていました。吉備の地が、いかに日本の近代に大きな人的・思想的な貢献をしてきたか、地図と人物の繋がりで視覚的に理解できる展示でした。

✍️ おわりに
難波先生からは、「儒学は単なる古典の学問ではなく、自分の内側の良知を磨き、実際の行動に活かしていくものだ」というお話をいただきました。閑谷学校に350年前から灯り続けている「学びの火」、楯築遺跡の石に刻まれた無言の問い、クラボウや三島中洲・渋沢栄一が実践した「道徳と経済の一致」――どれもが、根っこでつながっていると感じた2日間でした。
歴史を「現地で体感する」ことの意味を、改めて噛みしめています。次は、ぜひ皆さんにもこの土地を歩いていただきたいです。













